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韓国での最低賃金引き上げ

2018年の12月7日、韓国・朝鮮日報が「最低賃金引き上げの実態調査は衝撃的…恐ろしくて発表できずにいる」と題する記事を掲載したことはご存知でしょうか?
韓国では昨年の2018年あたりから急激に人件費を上げる動きがあり、特に中小企業の間では批判の声も強まるなど賛否両論あるようです。
今回は韓国での最低賃金の費引き上げの実態と共に人件費について注目してみようと思います。

最低賃金引き上げの歴史

最低賃金法の制定

韓国では、「勤労基準法」(日本の労働基準法に相当)が1953年に制定されました。
その際に、最低賃金制度の導入が規定されます。
しかし、当時の経済状況から最低賃金制度を直ちに実施することは時期尚早と判断され、実施はしばらくの間見送られ、韓国の経済が徐々に発展してきた1980年代に入り、最低賃金制度の本格的導入の機運が高まり、1986年に「最低賃金法」が制定されます。
1987年には、実際に毎年の最低賃金額を決める最低賃金委員会が発足し、1988年から最低賃金額が適用されてきました。

最低賃金法の広まり

当初は、製造業の常用雇用労働者(以下、従業員という)が10人以上の事業所のみが適用対象となり、かつ、製造業の業種を低賃金業種と高賃金業種に分け、業種によって、2本立ての最低賃金額のうち、いずれかが適用されました。
1990年には、最低賃金額が製造業のみならず、全ての業種に適用になり、さらに1999年には従業員が5人以上の事業所に、そして2001年からは全ての従業員に適用されるようになった。

最低賃金の決定方法

韓国では最低賃金の改定にあたって、労働者、経営者そして中立的立場の公益委員で構成される最低賃金委員会が雇用労働部の諮問を受けて、毎年4月頃から審議を開始し、7月頃に最低賃金案を雇用労働部に答申。それを基に雇用労働部が最終決定し、8月初旬には翌年度に適用される最低賃金額が告示されてきました。
最低賃金委員会の例年の議論では、労働者の生活向上のため、最低賃金額を引き上げるべきとする労働者側と、景気が低迷する中で毎年の引き上げは厳しく、最低賃金額は決して低くないとする経営者側とが鋭く対立します。こうした中、韓国では元々労働者の力が強いこともあり、ここ数年の最低賃金の引き上げ率は2013年以降、1%前後で推移している消費者物価の上昇率を大きく上回る7~8%台で推移してきました。

文在寅(ムン・ジェイン)大統領の公約

2018年5月に発足した文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、大統領選挙の際に、2020年までに最低賃金を1万ウォン(984円)に引き上げると公約に掲げました。
そのため、2018年1月1日から1年間適用される最低賃金額は現行の6,470ウォンから16.4%と例年の2倍を超える引き上げ率で、7,530ウォン(741円)とすることが雇用労働部の2017年8月4日付けの告示で正式に決まります。
文在寅大統領の就任による大幅な引き上げと言えるでしょう。

大幅な最低賃金引き上げへの不満

経理者からの反発

経営者側、とりわけ従業員が30人未満の小規模企業経営者は、16.4%の引き上げとなれば、人件費負担に耐えられなくなる可能性が高くなります。
中でも、飲食業などのサービス業では、経営コストに占める人件費の割合が高く、生産性の向上を反映しない最低賃金の大幅な引き上げには困惑しているのが現状といえます。
中央日報によると、チェーン店のチキン店を営む店主(55歳)は、「アルバイトの数を減らして私が代わりに働くか、時間を短縮させるか。どっちにしても一方的なこんな上げ方は事業主のことをまったく考えていないわけで、人気取りもほどほどにしてほしい」とぼやいていたと載せています。
また、アルバイト斡旋会社の調査では雇用主の70%以上が今回の引き上げに不満を表わしていて、引き上げが始まればアルバイトの数を減らすと答えた人は80%もいたとしています。
大幅な最低賃金引き寄せの波は中小企業、特に小規模企業へ厳しく押し寄せていると言えます。

労働者側の不安

一方、労働者側にとっては、可処分所得が増え生活にもゆとりが生まれることが考えられるが、中小・零細企業で働く労働者にとっては、最低賃金が上がる期待感よりは、それに対応しきれない経営者から解雇されてしまうのではないかという不安が募っているようです。
実際にコンビニエンスストアなどではオーナーやその家族が働く時間を増やし、パートタイムの従業員を雇わなくなる店も増えていると言います。
労働者にとって賃金が上がることよりも、働き口がなくなってしまうことは非常に避けたい事態でしょう。

政府の支援策

自分の生き方を変える2018年予算案

最低賃金の大幅な引き上げに対応して、政府は小規模企業経営者の支援策を打ち出しています。
2017年8月の文政権発足後初めてとなる2018年度の政府予算原案は文政権の「自分の生き方を変える2018年予算案」というキャッチフレーズに沿って編成されており、総額429兆ウォン(前年度比7.1%増)のうち、保健・福祉・雇用に予算総額のほぼ3分の1にあたる146兆2,000億ウォン(前年度比12.9%増)を投入。
次いで、一般行政・地方行政に69兆6,000億ウォン(同10.0%増)、以下、教育費に64兆1,000億ウォン(同11.7%増)、国防費には43兆1,000億ウォン(同6.9%増)の順になっている。その反面、インフラ整備のための社会間接資本(SOC)は同20.0%減の17兆7,000億ウォン、文化・体育・観光関連予算は同8.2%減の6兆3,000億ウォンをあてています。

雇用への予算投入

保健・福祉・雇用関連に多くの予算を充当しているが、とりわけ、最低賃金の大幅な引き上げに対する支援策として、従業員30人未満の小規模企業の人件費を軽減するために、そこで働くおよそ300万人の労働者に対し、毎月最大で13万ウォンを最長5年間支給するとし、9兆8,000億ウォンを投入することにしている。これは、過去5年間の最低賃金の年平均引き上げ率である7.4%を上回る部分(9.0%分)に相当する金額を支援しようというものです。
また、所得下位30%に該当する高齢者に対しては、毎月の基礎年金を従来の20万ウォンから25万ウォンに引き上げるとしています。

小規模企業の現状

今回の最低賃金の引き上げについて、経営者側の団体である韓国経営者総協会では、中小企業の42%が営業利益で借入金の利子も支払えないような状況にあり、従業員30人未満の小規模企業経営者の27%が毎月の営業利益が100万ウォンに満たない状況であることからすると、2018年の新規採用は減少すると見込んでいます。
また、同協会では、2016年の基準で、最低賃金すら受け取ることのできなかった労働者の87.3%が従業員30人未満の小規模企業に働く労働者であると分析しています。

文政権の正念場

国民が安定した生活を営むためには、最低賃金の引き上げは不可欠であるが、過度な最低賃金の引き上げは労使ともに首を絞めてしまうことにつながりかねません。
一方、最低賃金の引き上げにより消費が拡大し、企業活動が活発化するという好循環が起き、ひいては経済規模の拡大に結びつく可能性ももちろんあるでしょう。
文政権による思い切った最低賃金の引き上げは、2年目に入る文政権の経済運営にプラスと出るのか、あるいはマイナスと出るのか、その影響が注目されます。

弊社ではこいうった最低賃金の引き上げなど韓国国内での時事問題に対応し、韓国進出支援をサポートさせていただきます。
ぜひ、お気軽にご相談ください。

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