韓国では、今、「働き方改革」の波が来ていることは、ご存知でしょうか?
一見すると聞こえが良い「働き方改革」ですが、改正労働基準法の施行と共に、さまざまな問題点も指摘されています。
韓国へ進出されている企業にとっても就業規約を見直す機会なのではないかと思います。
では、「働き方改革」の概要や問題点に注目してみましょう。
韓国では、2018年7月1日から残業時間を含めた1週間の労働時間の上限を52時間に制限することを柱とする改正勤労基準法(日本の労働基準法に当たる)が施行されました。
この改正労働基準法以前は上限は68時間とされており、上限52時間への制限は非常に大きい変更だと言えます。
日本でも同様の働き方改革は以前から強まっていますが、この「週52時間勤務制」はまさに韓国版「働き方改革」といえます。
日本での働き方改革と同じく、文在寅(ムン・ジェイン)政権は労働者の働き過ぎの改善とともに、1人当たりの労働時間短縮で新たな雇用創出を狙っているようです。
さて、韓国政府が残業の上限規制を大きく短縮し、最低賃金を大きく引き上げる改革を実施した理由はなんなのでしょうか?
まず、韓国政府が「週52時間勤務制」を実施した理由は、長時間労働を解消し、労働者のワーク・ライフ・バランスの改善(夕方のある暮らし)を推進することにあります。
韓国は年間労働時間が平均2千時間を超える世界的にも最悪レベルの状況にあり、この労働時間の削減を進め、余暇の増加など生活の質を向上させ、「夕方のある暮らし」を実現するのが目標とされています。
また、文在寅大統領は若者の失業率が約1割に上るという雇用問題の解決を重要公約に掲げており、労働時間の短縮に伴い従業員を新規採用した企業には、支援金を支払う政策も打ち出しています。
就職難にある若者は、既に労働時間の短縮に対応している大企業への就職を望む傾向が強く、中小企業では労働時間の長く、賃金が安いと、大企業へ一極集中が進み、さらに就職難が広まってしまっています。
こういった就職難の改善のためにも、特に中小企業において労働時間の制限を進め、中小企業への就職を促す目的があります。
労働時間の上限が適用されるのは、従業員数300人以上の企業や国家機関・公共機関で、違反した事業主には2年以下の懲役あるいは2千万ウォン(約200万円)以下の罰金が科されることになりました。但し、施行から半年間は試行期間とし、罰則が猶予されます。
「週52時間勤務」は、2021年までには中小企業にも段階的(50人以上~300人未満の事業場は2020年1月まで、5人以上~49人未満の事業場は2021年7月まで)に拡大・適用されることが決まっており、中小企業にとっても大きな変化が訪れるでしょう。
具体的には、これまでも残業時間を含む1週間の最大労働時間は、勤労基準法の規定上は52時間であったが、「法定労働時間」を超える労働、すなわち「延長勤務」に「休日勤務」は含まれないと雇用労働部が解釈したため、労働者は1週間の法定労働時間40時間に労使協議による1週間の最大延長勤務12時間、そして休日勤務16時間を合わせた合計68時間まで働くことが許容されていました。
しかし、今回の改正では休日勤務は延長勤務に含まれると行政解釈をしており、1週間の最大労働時間を52時間にする「週52時間勤務制」が実施されることになった。休日勤務手当は変更されず、8時間以下分に対しては50%の加算が、8時間超過分に対しては100%の加算が適用されます。
また、法定労働時間の例外適用が認められていた「特別業種」は、全面廃止を主張する労働界の要求が一部反映され、26業種から5業種に縮小されました。一方、18歳未満の年少者の労働時間は1週間に40時間から35時間に、そして延長勤務時間は6時間から5時間に制限されることになりました。
「週52時間勤務制」の実施による「働き方改革」は良いことばかりではないのが現状といえます。
まず、労働時間の短縮による賃金総額の減少があげられます。特に、製造業の場合は基本給が低く設定されており、残業により生活水準を維持する労働者が多かった。
韓国中部に位置する世宗特別自治市と忠清南道地域の自動車労組は2018年10月1日に週52時間勤務制の実施により賃金が減少したとして、早急の対策を求めました。当自動車労組は賃金の減少分が補填されない限り、10月5日から総ストライキに突入すると発表し、その後、労使の間で交渉が行われました。
結局、減少した賃金の一部が補填されることになり、幸いにストライキまでは至らなかったものの、全国各地で労働時間短縮による賃金減少の問題をめぐる労使間の抗争は今後も予想されます。
労働時間の短縮により、「夕方のある暮らし」を目指すことは望ましいものの、1ヶ月の残業時間が最大64時間も短縮されると労働者側にとって、生活に与える影響は大きいと言えます。
また、大幅に引き上げられた最低賃金の影響もあり、ガソリンスタンドやコンビニエンスストアを中心に無人店舗が増加しており、韓国の大型マートのEマートが運営するコンビニエンスストア「Eマート24」は昨年、年末までに無人店舗を現在の9店舗から30店舗まで拡大する方針を示しました。
人件費に対する負担増加を労働投入量(労働者の数や労働者の労働時間)の縮小で緩和しようとする動きであり、このような動きが拡大されるとさらに労働市場が萎縮する恐れがあると言えます。
改正労働基準法の普及と共にさらに人件費をかけない無人の店などが増加していくことが予想されます。
一方、「週52時間勤務」の実施は、企業の労働力不足につながる恐れもあります。韓国経済研究院は「週52時間勤務」の実施により、26.6万人の労働力不足が発生し、その結果、企業負担は年12兆ウォンまで増加すると推計しています。
大企業の場合は「週52時間勤務」の実施に備えて、フレックス勤務制を実施する等、以前から着実に対策を講じていたので、現在のところ大きな混乱はないようだが、中小企業の状況は異なるだろう。
就業ポータルサイトの「Incruit(インクルート)」などが352社を対象に実施した週52時間勤務制に対する調査結果によると、62.1%の企業が「まだ準備が足りない」と答えており、「準備ができている」と答えた企業の37.9%を大きく上回っています。
改正法により、週40時間の法定労働時間に残業時間を加え、週68時間まで認められてきた上限が大幅に短縮され、週12時間を超える残業が禁じられることとなりました。違反した事業主は2年以下の懲役か2千万ウォン(約200万円)以下の罰金が科され、特に中小企業にとってはこの罰則は非常に大きいと言えます。
2021年の7月までには従業員が5~49人未満の中小企業にも改正法が拡大されます。
現状の雇用状況のままでは、改正後、違反となってしまう企業も多いのではないでしょうか。
この機会に就業規約を見直しをおすすめ致します。
もちろん弊社では、改正法に基づき、就業規約を照らし合わせ、変更が必要とされる点を提案させていただきます。
「働き方改革」の波に乗り、さらに優秀な人材を確保するチャンスでもあると言えますよ。
ぜひ、お気軽にご相談ください。